本書は、著者が医学部で講義している薬理学総論のエッセンスを、医療系学生はもちろん、患者さんを含め
た一般の読者にも伝わるよう、わかりやすい文章で解説した薬理学の入門書です。タイトルを「薬理学入門」
ではなく「臨床薬理学入門」としたのは、医療系学生が学ぶべき薬理学は臨床に直結するものでなければな
らない、という著者の考えによるものです。
執筆にあたり、一般の方以外の読者として、チーム医療のメンバー全員を想定しました。それは、現代医療
はチーム医療であり、医療に関わる人たちが知識を共有しなければ、薬物治療は成功しないと考えるからで
す。医療系学生の皆さんは、本格的な教科書をひもとく前に本書を通読することで、学習のポイントをつか
むことができるでしょう。著者が学生の皆さんに最も望むのは、薬に対する意識が目覚め、なぜ薬理学を
しっかり学ぶ必要があるのか、心からわかってもらえることです。
ところで、医療チームのメンバーは医療職の人たちばかりではありません。チームの主役はむしろ患者さん
です。患者さんが主体的に治療計画に参加し、納得できる治療法を自ら選択できるようになれば、薬物治療
の効果を最大限に引き出すことができます。そこで本書は、薬物治療の基礎知識を患者さんに身につけても
らうための教養書にもなっています。これを読めば、医師や薬剤師の説明がよく理解でき、治療法の選択に
際して適切に判断できるようになるでしょう。
16の章立ては、おおむね、著者が大学で薬理学総論を講義する順番になっています。しかし、難解な専門用
語をなるべく避け、平易な言葉で書いているので、話を聴くような感覚で気楽に読み進められるものになっ
ています。
▼目 次
はじめに
第 1 章 薬とは何か──薬と毒はどこが違うのですか?──
「薬」と「剤」/大部分の薬は自然界に由来する/薬の語源/薬と毒はどう違うか/薬のいろいろ/
薬と食べ物はどう違うか
第 2 章 薬の名前──カタカナばかりで覚えにくいのですが?──
薬には3つの呼び方がある/名前の混乱が医療過誤を引き起こす/配合剤の功罪
第 3 章 薬物治療とは──病気は薬で治せるのですか?──
薬は何のためにあるのか/予防薬、診断薬、治療薬とは/治療薬で病気がなおせるか/薬の標的
第 4 章 薬の作用メカニズム──薬はなぜ効くのですか?──
薬は標的分子に結合する/ファーマコフォア/標的分子のいろいろ/標的に結合したあと、何が起きるのか
第 5 章 薬のたどる道──なぜ毎日飲まなければならないのですか?──
薬物動態/血中薬物濃度/吸収と分布/代謝と排泄
第 6 章 有害反応──この薬、副作用はありますか?──
クスリはリスク/「;副作用」とは何か/誰にでも起こる有害反応/特定の人に起こる有害反応/
知っておくべき重い有害反応/漢方薬でも有害反応は起こる/医薬品副作用被害救済制度
第 7 章 薬害──なぜ、悪い薬をつくったのですか?──
薬害とは何か/サリドマイド薬害/キノホルム薬害/ソリブジン薬害/薬害教育/日常にひそむ「薬害」
第 8 章 薬の乱用──なぜ、やめられないのですか?──
薬物乱用とは/乱用はなぜ始まったか/乱用されやすい薬物/鎮静作用をもたらす薬物/
興奮作用をもたらす薬物/知覚の変化をもたらす薬物/麻薬とは何か
第 9 章 薬と薬の相互作用──いっしょに飲んでも大丈夫ですか?──
薬物相互作用/相互作用の分類/薬物動態上の相互作用/薬理学上の相互作用/有害な相互作用を避けるには
第10章 薬が効きにくい人、効きすぎる人──この薬、私に効きますか?──
薬効と有害反応の個人差/遺伝子の違い/遺伝子による薬物動態の違い/遺伝子による薬物感受性の違い/
がん細胞の変異/病原体の変異
第11章 妊娠と薬──薬を飲んではいけませんか?──
妊娠と薬/発生毒性と胎児毒性/妊娠中の薬物治療/妊娠中よくある病気について/授乳と薬
第12章 高齢者と薬──薬を飲んだら、体がフラフラするのですが?──
超高齢社会と薬物治療/加齢による薬物動態の変化/加齢による薬物感受性の変化/高齢者の薬物治療で
注意するポイント
第13章 薬のモニタリング──忙しいので、半年分の薬をもらえませんか?──
処方後の経過観察/薬効と有害反応のモニタリング/血中濃度のモニタリング
第14章 薬の開発──この薬、どこでつくったのですか?──
創薬とは/医薬品開発のプロセス:基礎研究から非臨床試験まで/医薬品開発のプロセス:臨床試験/
医薬品開発のプロセス:承認申請から製造販売へ/薬効の評価/臨床試験の倫理
第15章 薬の選択──専門家の処方だから、いい薬ですよね?──
よい薬とは何か/根拠に基づく医療/パーソナルドラッグ
第16章 薬と上手につきあうには──一生飲まなければいけませんか?──
薬物治療のインフォームド・コンセント/コンプライアンスからアドヒアランス、コンコーダンスへ/
本当に薬が必要か/薬はいつまで必要か/こんな医師には要注意
あとがき