A5464【光輝燦然】天然絶品ダイヤモンド2.08ct!18KWG無垢 ダイナミックフラワー婚約ペンダント 重さ9.4g 幅30.6×28.4mm
A5464【光輝燦然】天然絶品ダイヤモンド2.08ct!18KWG無垢 ダイナミックフラワーペンダント 鑑別書付
ご入札をご検討いただき、誠にありがとうございます。
これは単なる宝飾品ではございません。一つの物語であり、哲学であり、これから人生の荒波に漕ぎ出す、すべての勇敢なる魂に捧げる護符(アミュレット)でございます。
長文となりますが、このジュエリーが宿す本当の価値をご理解いただくため、しばし私の拙い筆にお付き合いいただければ幸いです。
東海道陶山、ダイヤモンドと夫婦の業を語る
序章:鎌倉、紫陽花の曇り空と玉露の深み
鎌倉の谷戸(やと)の奥、霧雨が苔むした石段を濡らす昼下がりであった。私の師、東海道陶山(とうかいどう とうざん)の庵、『無作法窯(むさほうよう)』の周囲は、盛りを過ぎた紫陽花が、褪せた夢のような色合いでけぶっている。空は鉛色に重く垂れこめ、湿った土の匂いが、濃密に空気を満たしていた。
「健太、ぼさっと突っ立っておるでない。そんなことでは、お前の焼くものも、締まりのない、ぼけた代物にしかならんぞ」
広間の縁側で、庭を眺めていた私の背に、師の叱声が飛ぶ。振り返ると、陶山は部屋の中央に置かれた巨大な欅(けやき)の切り株の座卓で、独り茶を嗜んでいた。その手にあるのは、師が先月焼き上げたばかりという、歪(いびつ)な天目茶碗であった。窯の中で偶然に生まれたという、油滴とも木葉ともつかぬ不思議な文様が、暗い器の内側で銀河のように煌めいている。しかし、その形はと言えば、およそ轆轤(ろくろ)の名手である師の作とは思えぬほど、大胆に捻じ曲げられ、口縁は憎々しげに反り返っていた。常人ならば失敗作として打ち捨てるそれを、師は「これぞ作為なき作為、土と炎の魂の交歓よ」と称して、ことのほか愛でているのだ。
「申し訳ございません、先生。この雨だれの音を聞いておりますと、どうにも心が静まりまして」
「静まるのではない、弛緩するのじゃ。芸術家の心とは、常に研ぎ澄まされた刃(やいば)のごとく、緊張を孕んでおらねばならん。雨だれの音一つにも、千の響き、万の陰影を聞き取れ。ただの湿った音としか感じられぬなら、お前はもう陶芸家などやめて、実家の八百屋でも継ぐがよい」
相変わらずの辛辣な物言いだが、その言葉には奇妙な温かみがあることを、長く師事する私は知っていた。陶山は、私に差し出すように、もう一つの器を卓上に置いた。それは、やや青みがかった白磁の汲み出しで、薄氷(うすらい)を思わせる繊細な貫入(かんにゅう)が全面に走っている。
「まあ、座れ。今日は宇治の『奥の山』、特別な玉露が手に入った。この湿気た空気の中でこそ、その真価がわかるというものじゃ」
私は恐縮しながら師の対面に座った。陶山は、鉄瓶からやや冷ました湯を、恭しく急須に注ぐ。部屋に、海苔にも似た、甘く濃厚な覆い香が立ち込めた。やがて、私の前の白磁の汲み出しに、翡翠(ひすい)色の雫がとくとくと満たされていく。
「飲んでみよ」
促されるまま、私は両手で器を包み込むように持ち、口をつけた。瞬間、舌の上に凝縮された旨味の塊が、ゆっくりと、しかし圧倒的な力をもって広がっていく。それは、もはや液体というよりも、出汁(だし)の極致、生命のエッセンスそのもののような味わいであった。渋みは微塵もなく、ただただ深く、甘く、円い。飲み下した後も、喉の奥から鼻腔にかけて、芳醇な香りが幾度も立ち上ってくる。
「……! これは……」
「どうじゃ。わかるか。この一口に、茶葉を育てた土の力、覆いをかけて日光を遮った人間の知恵、そして茶師の技、その全てが凝縮されておる。そして、この白磁の器。この器の冷たさと、僅かな青みが、玉露の持つ緑の色と、ぬるりとした温度を、最も鮮烈に引き立てるのじゃ。器と中身は、互いを高め合うために存在する。いわば、これは最高の結婚じゃな」
「結婚、でございますか」
「うむ。最高の組み合わせ。互いの長所を最大限に引き出し合う、理想の夫婦の姿よ。……もっとも」
陶山は、自らの歪んだ天目茶碗に玉露を注ぎ、ぐいと呷(あお)った。
「世の中のほとんどの人間は、こんな理想の結婚などできはせん。というより、そんなものを目指すこと自体が、根本的な間違いなのじゃがな」
師が謎めいた言葉を口にした、その時であった。玄関の方で、控えめな呼び鈴の音が鳴り響いたのは。
第一章:一輪のダイヤモンドと、相性の悪い女
取次に出た私が見たのは、二十代後半と思しき、うら若い女性であった。上質な麻のワンピースに身を包み、その佇まいには育ちの良さが窺えたが、伏せられた長い睫毛の下の瞳には、深い憂いの色が湛えられている。小夜子、と名乗った彼女は、東海道先生に、ぜひお見せしたいものがあるのだと、緊張した面持ちで言った。
陶山は、客人を無下に断ることもあれば、その日の気分で誰であろうと招き入れることもある。今日は後者の日だったらしい。「通せ」というぶっきらぼうな声が奥から聞こえ、私は小夜子さんを広間へと案内した。
「東海道先生でいらっしゃいますね。突然の訪問、お許しください。私、古美術に詳しい方から、先生ならばこの品の本当の価値がお分かりになるだろうと伺いまして……」
小夜子さんは深々と頭を下げ、懐から古風な桐の小箱を取り出した。漆黒の塗り箱に、金の蒔絵で控えめな蔦(つた)の紋様が描かれている。陶山は、その箱を一瞥しただけで、ふんと鼻を鳴らした。
「箱なぞどうでもよい。肝心なのは中身じゃ。見せてみよ」
小夜子さんの白い指が、僅かに震えながら箱の蓋を開ける。中に敷かれた真綿の上に鎮座していたのは、息を呑むほどに眩い輝きを放つ、一つの宝飾品であった。
それは、ダイヤモンドで形作られた、一輪の花だった。
中央には、まるで朝露に濡れた蕾(つぼみ)のように、こんもりと盛り上がった球体が据えられている。その表面は、大きさの異なる無数のダイヤモンドが、石畳のごとく隙間なく敷き詰められていた。パヴェ・セッティング、という技法であろうか。一つ一つの石が、部屋の仄暗い光を貪欲に捕らえ、内部で幾重にも反射させ、虹色の閃光となって四方八方に迸(ほとばし)らせている。その光は、冷たく、鋭く、しかしどこか甘美な毒を含んでいるかのようであった。
そして、その輝きの球体からは、五枚の花弁が、まるで生きているかのように、有機的な曲線を描いて伸びていた。花弁は、ただの平板なものではない。流れるようなリボンのように、軽やかにひねりを加えられ、その縁には精緻なミルグレイン(粒金)装飾が施されている。花弁の上にも、中央ほどではないが、小粒のダイヤモンドが一列に埋め込まれ、全体の豪奢な輝きに、繊細な輪郭を与えていた。
地金は、プラチナかホワイトゴールドであろう。月光を思わせる、静かで品のある白い輝きが、ダイヤモンドの烈しい光を、優しく受け止めている。その大きさは、女性の掌に隠れるほどでありながら、放たれる存在感は、部屋全体の空気を支配するかのようであった。それは、ペンダントトップとして作られたものらしかった。
「……祖母の形見でございます」
小夜子さんが、か細い声で言った。
「祖母が亡くなり、遺品を整理しておりましたら、これが出てまいりました。母も、このような高価なものとは知らなかったようで……。先日、宝飾店に見ていただいたところ、大変な価値のあるものだと言われ、鑑別書も取っていただきました」
彼女は、傍らに置いた鞄から、ノーブルジェムグレーディングラボラトリーと記された鑑別書を取り出して、卓上に滑らせた。
陶山は、それに目をくれるでもなく、ただじっと、その花のペンダントを見つめている。その眼差しは、窯から出したばかりの作品を検分する時のように、鋭く、そして容赦がなかった。やがて、彼はごつい指で、ひょいとそれを摘み上げた。
「重さ9.4グラム。見た目の軽やかさに反して、ずしりとくるな。地金を惜しげもなく使っておる証拠じゃ。18Kのホワイトゴールドか。プラチナよりも、僅かに温かみのある、この白がいい。肌馴染みが計算されておる」
彼は、懐から取り出した古びたルーペを目に当て、ペンダントを光にかざした。
「ふむ……。中央のドーム部分、そして花弁。合わせて2.08カラット。D2.08の刻印は伊達ではないな。しかも、使われているダイヤモンドは、どれも質が良い。インクルージョンが少なく、カットも正確じゃ。特に、この中央のパヴェ。大きさの違う石を、これほど立体的に、かつ破綻なく留めるのは、並大抵の職人技ではない。石留めの爪が、殆ど見えぬではないか。石が、まるで自らの力で寄り集まって、この形を成したかのようだ」
彼の指が、ペンダントを裏返した。そこには、ただの地金の板があるのではなかった。中央のドームの裏側は、円形にくり抜かれ、その中に、さらに五つの小さな花の形をした透かし彫りが施されている。光を最大限に取り込むための、計算され尽くした設計であった。花弁の裏にも、ダイヤモンドが留められている部分には、一つ一つ丁寧に穴が開けられている。
「これだ。これだよ、健太。魂は裏に宿る。人の目に触れぬところに、どれだけの手間と心を注げるか。それが、本物と偽物を分ける境界線なのじゃ。我々が作る茶碗の高台の削り、その一本の線に、作り手の全てが現れるのと同じことよ。この裏側の小さな五つの花! なんという遊び心、なんという自信か。これを作った職人は、己の仕事に、一点の曇りもない誇りを持っておったに違いない」
師は、まるで長年の友に再会したかのように、興奮した口調で語った。しかし、その表情はすぐに、いつもの皮肉めいたものに戻った。
「だがな、お嬢さん。お主が聞きたいのは、こんな技術的な話ではあるまい。お主が本当に知りたいのは、こんな『業物(ごうもの)』を、なぜお主の祖母が持っていたのか。そして、この輝きが、お主自身の人生とどう関わってくるのか。そういうことではないのかね?」
図星を突かれたのだろう。小夜子さんの肩が、びくりと震えた。彼女の瞳から、堪えていた涙が一筋、白い頬を伝って落ちた。
「……先生には、お見通しなのですね」
「わしは陶芸家じゃ。土くれの声を聞き、炎の心を読むのが仕事よ。人間の心の機微など、粘土を捏(こ)ねるよりたやすいわ。……言ってみよ。お主の悩みとやらを」
「……私、来月、結婚いたします」
「ほう。それは結構なことじゃ。で?」
「……相手は、私とは何もかもが正反対の人間なのです。私は静かな場所を好みますが、彼は賑やかな場所が好き。私は計画を立てて物事を進めたいのに、彼はいつも行き当たりばったり。食べるものの好みから、金銭感覚まで、何一つとして合いません。毎日、些細なことで口論ばかりしております」
「ふむ」
「友人たちは言います。『そんなに相性の悪い人と結婚して、うまくいくはずがない』と。私も、そう思うのです。このまま結婚して、本当に幸せになれるのだろうか、と。毎晩、不安で眠れません。そんな時、この祖母のペンダントを見つけました。こんなに輝かしいものを、祖母はどんな気持ちで身につけていたのだろう、と。祖父と祖母は、それは仲の良い夫婦でしたから、きっと、この輝きのように、幸せな結婚生活だったのだろう、と。そう思うと、ますます自分の未来が惨めに思えてきて……」
小夜子さんは、とうとう声を詰まらせ、俯いてしまった。
沈黙が、重く広間に落ちた。雨だれの音だけが、ぽつり、ぽつりと、時の経過を告げている。
やがて、陶山は、深いため息をつくと、あの歪んだ天目茶碗を、ごとりと卓上に置いた。その音は、まるで裁きの槌(つち)が振り下ろされたかのように、厳かに響いた。
「……愚か者めが」
陶山の声は、低く、しかし、部屋の隅々まで染み渡るようであった。
「お主も、お主の友人とやらも、世の中の人間という人間が、揃いも揃って、根本的な勘違いをしておるのじゃ」
第二章:土と炎の結婚、そして人生という名の修行
「勘違い……でございますか?」
涙に濡れた瞳を上げた小夜子さんが、訝しげに問い返す。
「左様。皆、勘違いしておる。結婚相手、配偶者とはな、一番気の合う、相性の良い人間と結ばれるのが幸せなのだと。笑わせるでないわ。そんなものは、ただの幻想、子供だましの絵空事じゃ」
陶山は、卓上のペンダントを人差し指で、こつ、と軽く叩いた。ダイヤモンドの集合体が、ちりりと鋭い音を立て、光の波紋を広げる。
「よく聞け、お嬢さん。そして健太、お前もだ。結婚相手とはな、本来、自分にとって一番相性の悪い人間と一緒になるのが普通なのじゃ。いや、むしろ、そうでなくてはならん」
私は、師の突拍子もない言葉に、耳を疑った。一番、相性の悪い相手と? それでは、小夜子さんが悩んでいることこそが、正しい道だというのか。
「先生、それは一体、どういう……」
「わからんか、この若造が。だからお前の焼くものは、形ばかりで魂が籠らんのじゃ。いいか、楽なだけの関係に、真の創造も、成長もありはせん。それは、陶芸も、料理も、そして人間関係も、万物の理(ことわり)じゃ」
陶山は、自らの工房の方を顎でしゃくった。そこには、出番を待つ様々な種類の粘土が、湿った布を被せられて眠っている。
「例えば、あそこに信楽(しがらき)の土がある。荒々しく、石粒を多く含み、火に強い。隣には、京の白土がある。きめ細かく、繊細で、高温には弱い。この二つを、ただ混ぜ合わせただけでは、どうなる? 互いの性質が殺し合い、焼けばひび割れ、歪み、使い物にならん代物ができるだけじゃ。まさに『相性が悪い』。そうだろ?」
私と小夜子さんは、こくりと頷くしかなかった。
「だがな。それぞれの土の性質を、極限まで見極める。信楽の骨っぽさを活かし、京土の肌理(きめ)の細かさをどう被せるか。配合の比率、水の量、捏ねる力加減、その全てを寸分違わず調整し、互いの反発する力を、逆に利用してやる。そして、千三百度の炎という、絶対的な試練の中に放り込むのじゃ。するとどうなるか。炎の中で、二つの土は、互いに抵抗し、せめぎ合い、猛烈な葛藤の末に、奇跡的に溶け合う瞬間が訪れる。そうして生まれた器は、どちらか一方の土だけでは決して生まれ得なかった、複雑で、深く、力強い景色を持つ、唯一無二の作品となる。これこそが、創造の極意じゃ」
師の言葉は、熱を帯びていた。それは、幾度となく土と炎に裏切られ、それでもなお挑み続けてきた者だけが語れる、真実の響きを持っていた。
「人間も同じことよ。自分とそっくりな人間、何から何まで意見の合う人間と一緒にいて、何の発見がある? 何の成長がある? それは、ぬるま湯に浸かって、自分は正しい、自分は間違っていないと、互いに慰め合っているに過ぎん。それは成長ではない、停滞じゃ。魂の怠慢じゃ」
陶山は、今度は小夜子さんの目を、真っ直ぐに見据えた。
「お主の言う、その婚約者。彼はお主とは正反対だそうだな。結構なことじゃないか。彼という存在は、お主にとって、最高の砥石(といし)であり、最も鮮明な鏡なのじゃ。彼の計画性のなさに腹が立つのは、お主自身が、計画に縛られすぎているからかもしれん。彼の賑やかさが煩(わずら)わしいのは、お主が、自らの殻に閉じこもりすぎているからかもしれん。彼の金銭感覚が理解できんのは、お主が、金というものの一面しか見ていないからかもしれん。相手を通して見えるのは、相手の欠点ではない。自分自身の未熟さ、偏狭さ、そして凝り固まった価値観なのじゃよ」
雷に打たれたような衝撃が、私を貫いた。隣の小夜子さんも、息を呑んだまま、師の言葉に聞き入っている。
「相性の悪さに苦しみ、ぶつかり合い、喧嘩する。大いに結構。それは、互いの魂が、互いを削り、磨き合っている音なのじゃ。その摩擦の熱こそが、信楽と京土を溶かし合わせた、あの千三百度の炎に他ならん。その苦しい修行を乗り越えた先にしか、本当の『夫婦』という、唯一無二の作品は完成せんのだ。生まれてきた意味とは、楽をすることではない。苦しみの中で、己の魂をどれだけ磨き上げられるか。その一点に尽きる。そのための最高の修行の場として、神様だか仏様だかが用意してくれたのが、『一番相性の悪い配偶者』というわけじゃ」
陶山は、ふう、と長い息を吐くと、再びあのペンダントを手に取った。
「このペンダントが作られた時代を、わしなりに想像してみるにな。おそらくは、第二次大戦後のヨーロッパ、1950年代から60年代にかけての、いわゆる『栄光の三十年』と呼ばれる好景気の時代じゃろう。デザインには、20世紀初頭のアール・ヌーヴォー的な、植物の有機的な曲線が見て取れる。この流れるような花弁のラインがそうじゃ。しかし同時に、中央のドーム部分の、幾何学的なダイヤモンドの集合体には、アール・デコの合理的な精神も感じられる。つまりこれは、二つの異なる時代の様式が、見事に融合した作品なのじゃ」
彼は、ペンダントを小夜子さんの前に、そっと置いた。
「この花の形は、ただ可愛らしいだけではない。戦争という未曾有の破壊と混乱を乗り越えた人々が、再び『生きる』ことの喜び、生命の輝きを、爆発的に求めた時代のエネルギーが、この形に凝縮されておる。ダイナミックで、生命力に満ち、どこか奔放ですらある。これもまた、静と動、破壊と創造という、相反するものがぶつかり合って生まれた美しさじゃ」
「そして、この中央の輝き。これは、パヴェ・セッティングという技法だと言ったな。フランス語で『石畳』を意味する。よく見ろ。ここに敷き詰められたダイヤモンドは、一粒として同じ大きさ、同じ形のものはない。大小様々な、個性も輝きも違う石たちが、互いに身を寄せ合い、支え合い、高め合うことで、この一つの、圧倒的な光の球体を形成しておる。もし、ここに並んでいるのが、全て同じ大きさ、同じ形の、没個性な石ばかりだったら、これほど深く、複雑で、心を揺さぶる輝きは生まれなかったであろうよ」
師の言葉は、まるで魔法のように、私の目に見えているものの意味を、次々と変えていった。ただの豪華なジュエリーだと思っていたものが、今や、宇宙の法則を内包した、一つの小宇宙のように見え始めていた。
「お嬢さん。お主の祖父と祖母が、本当に仲の良い夫婦だったというのなら、それは、元から相性が良かったからではない。全く違う個性を持つ二人が、人生という長い時間の中で、このパヴェ・ダイヤモンドのように、ぶつかり合い、支え合い、互いを磨き続けた結果、ようやく辿り着いた境地なのじゃろう。その葛藤と、努力の結晶が、『仲の良い夫婦』という、傍目には美しく見える作品として完成したに過ぎん」
小夜子さんの瞳から、再び涙が溢れ出した。しかし、それは先程までの、不安と自己憐憫の涙ではなかった。何か、もっと別の、熱い感情の奔流であった。
「祖母は……いつも笑っている人でした。でも、一度だけ、私が子供の頃に聞いたことがあります。結婚した当初は、祖父の頑固で無口なところが、本当に嫌で嫌で、何度も実家に帰ろうと思った、と。でも、そのたびに、『この人を理解できるのは、世界で私しかいないのかもしれない』と思い直して、踏みとどまったのだ、と……」
「それじゃ。それこそが、修行の始まりであり、愛の始まりじゃ」
陶山は、満足げに頷いた。
「お主の祖母は、見事に修行をやり遂げたのじゃな。そして、その証として、この輝きを手にした。この無数のダイヤモンドの輝きは、祖母が乗り越えてきた、無数の葛藤の輝きそのものかもしれんぞ。人生における、小さな喜び、小さな悲しみ、小さな怒り、その全てが、この一粒一粒のダイヤモンドなのだ。それらが集まって、一つの、かけがえのない人生という輝きを織りなす」
終章:輝きを継ぐ者と、修行への帰還
小夜子さんは、震える手でペンダントをそっと包み込んだ。その輝きは、彼女の白い指の間から、まるで生きているかのように力強い光を放っている。彼女は、涙を拭うと、すっくと立ち上がり、私と陶山に向かって、深く、深く、頭を下げた。
「先生……ありがとうございました。私の目は、節穴でございました。私は、結婚というものを、自分の都合の良い、安楽な場所だとばかり考えておりました。彼との違いを、不幸の種だとしか思えませんでした。でも、違ったのですね。あれは、私たちが、これから一つの作品になるための、炎の試練だったのですね」
その顔は、先程までの憂いを帯びた少女のそれではなく、自らの足で人生という荒野を歩いていく覚悟を決めた、一人の女性の顔になっていた。
「このペンダントは、祖母が私に遺してくれた、道標だったのかもしれません。この輝きを胸に、私も、私の修行と、正面から向き合ってみようと思います。逃げずに、彼という人間を、そして、彼を通して見える、私自身の未熟さと、とことん戦ってみようと思います」
晴れやかな、一点の曇りもない声であった。彼女が去った後、広間には、再び雨音と、そしてダイヤモンドが残した輝きの余韻だけが満ちていた。
「……やれやれ。また一人、面倒な業(ごう)を背負わせてしもうたわい」
陶山は、そう呟きながらも、その口元には、満足げな笑みが浮かんでいた。彼はやおら立ち上がると、戸棚から、年代物の紹興酒の甕(かめ)と、自らが作ったという、やはりどこか歪で、しかし土の温かみが伝わってくるような、二つのぐい呑みを取り出した。
「健太。お主も一杯付き合え。祝杯じゃ。あの小娘が、本当の『職人』への第一歩を踏み出した記念だ」
琥珀色の液体が、とろりとぐい呑みに注がれる。熟成された、甘く複雑な香りが、鼻腔をくすぐった。
「先生、ありがとうございました。私も、大変勉強になりました。器のこと、そして……人生のことも」
私がそう言うと、師は、からからと笑った。
「馬鹿者。わしが偉そうに語ったことなど、全て、わし自身への戒めじゃ。わしにもな、家に帰れば、わしという扱いにくい土を、毎日毎日、容赦なく火で炙ってくる、最高に相性の悪い女房という名の『炎』が待っておるわ。あれがおらねば、わしの作品も、わしの人生も、とうの昔に、生ぬるいだけの、つまらんものになっておったろうよ」
そう言って、彼はぐい呑みを一気に呷った。その横顔には、深い皺が刻まれていたが、それはまるで、幾多の試練を乗り越えてきた、古木のような風格を湛えていた。
「さて、と。わしもそろそろ、家に帰って、一番手強い『修行』の続きをするとするか」
雨上がりの西の空に、一筋の光が差し込み、庭の濡れた苔を、きらりと照らし出した。私は、師の言葉と、手の中にある酒の深い味わい、そして、瞼の裏に焼き付いて離れない、あの光輝燦然たるダイヤモンドの輝きを、ゆっくりと反芻していた。
相性の悪さこそが、人を磨く。人生とは、修行である。
その日、私が師から授かったのは、陶芸の技法でも、美食の知識でもなく、生きとし生けるもの全てに共通する、厳しくも、しかし希望に満ちた、一つの真理であった。そして、あのフラワーペンダントは、ただの高級宝飾品ではなく、その真理を体現した、一つの聖遺物のように、私の心に深く刻み込まれたのであった。
こちらはあんまり反響なかったら取り消します〜奮ってご入札頂けると嬉しいです〜