*「野生と文明: オーストラリア原住民の間で」単行本SC 1979/12/1 新保 満 (著) 未来社 267ページ RN124SM
1979年発行。小口に少シミ。カバーの天・小口の角に傷み。軽い経年ヤケ
Amazonレビューより
著者は中国は大連に生まれ、1962年カナダのブリティッシュ・コロンビア大学に留学、1963年から66年にかけてサスカチュワン大学の村落社会研究所でカナダ先住民を調査した後、1977年から78年にかけてオーストラリア先住民の教育調査を要請され、ノーザン・テリトリーの40以上のコミュニティに入った。
この調査で新保は、3冊の本を出版した。1冊は、本調査の目的であったノーザン・テリトリーにおける先住民の教育問題に関する報告書『ノーザン・テリトリーにおけるアボリジナル教育の社会プロセス』。また1冊が本書『野生と文明』であり、3部形式の本書には、新聞への連載記事を集め、第1部を先住民の歴史を5つの挿話に焦点を当てながら説明し、第2部をダーウィン周辺、第3部をアリス・スプリングス周辺の現状に当てている。もう1冊は『オーストラリアの原住民』で、3章形式の当該書は、前著よりも学術的な体裁で第1章を伝統社会の文献研究、第2章を社会変動の文献研究から書き、第3章でノーザン・テリトリーのコミュニティの現状を、政策、経済、教育といった側面から考察し報告している。
特に第2、3部を殆ど現地からの報告のようにして書いた本書は、「自分の体験、印象、評価などを初めて臆面もなく記した」とあるように、新保が戦前に植民地中国で生まれ、戦後に大学を卒業し、オーストラリアで先住民の社会運動の後に入って学んだことを、学生運動を経た日本の読者に伝えようとする際の幾重にも屈折した認識が見て取れる。そこで目を背けられなかったのは、寧ろオーストラリア先住民を取り囲むアングロ・オーストラリアという背景であり、「オーストラリア原住民」への共感と「文明」への反感は、彼が戦前から戦後にかけて体験した植民/被植民者の2重体験と重ねあわされていた。
これまで殆ど文献研究しか知らなかった日本の読者に、その重層的・多角的な背景の情報を提供してきた役割は大きい。